2021年5月21日金曜日

岩崎宏美「聖母たちのララバイ」初版問題

岩崎宏美の大ヒットシングル「聖母たちのララバイ」には作曲者として木森義之,John Scottが併記されているもの(以下、併記盤)とJohn Scottのみが表記されているもの(以下、単独表記盤)が存在しています。


先日twitterで@yukihirosasamoさんが見本盤を元に「併記盤が初版で間違いないのではないか」と推定されていました。

気になって私も検証してみましたが、私は違う推論に達したのでここで紹介したいと思います。


元々私が所有していたのは併記盤でした。前述の@yukihirosasamoさんが入手されたと言おう見本盤ではなく、私のは通常盤です。



歌詞カード、レーベルとも、作曲者は「木森義之,John Scott」と併記されています。
さて、こちらの送り溝には以下の通りの情報が刻まれています。

A面:1 1 7 (1) R



B面:1 1 4 (5) ※写真省略

()内はスタンパーと思われる番号(※印のような形から解読)

上記から1982年(1984年か1986年の可能性もあり?)6月にプレスされたものと推定されます。


なお、スタンパーおよびPMについては@Sawyer625 さんのブログの以下の記事を参考にしました。

ビクター国内盤のスタンパー・ナンバー

ビクター国内盤送り溝のアルファベットの謎が解けた [国内盤研究]


さて、一方で今回の検証のために入手した、単独表記盤がこちら。



こちらは歌詞カードとレーベルともにJohn Scott単独表記。


単独表記盤の送り溝には以下の通りの情報が刻まれています。

A面:1 1 3 (1) P

B面:1 1 1 (2) ※写真省略


プレスは1982年4月(1984年か1986年の可能性もあるがマザーの世代から1982年として間違いないと思う…)で、少なくともマザーは単独表記盤の方が確実に若いことがわかります。

このシングルはもともと1982年4月21日発売予定だったものが5月21日に延期されていますが、単独表記盤は発売日前にプレスされていることがほぼ確実で、併記盤は確実に発売日後のプレスです。

上記からすると手元の2枚を比較する限り単独表記盤のほうが先に生産されている可能性が非常に高く、冒頭の投稿で推測されていた「併記クレジットを修正して単独表記にした」という説に関しては必ずしも成り立たないといえると思います。

Wikipediaのページの「初回盤にJohn Scott作曲・編曲とクレジットされているものが存在する」という記述と合わせると、やはり単独表記盤は「初版」である可能性が高いと思われます。


さて、日本盤の別のシングルで時々「見本盤のほうが通常盤よりもスタンパーが進んでいる」というものを見かけることがあります。


手元にあるポール・マッカートニーの「ストラングルホールド」のシングルがその一例。



上が見本盤:1S 2

下が通常盤:1S 1


これに関しては @NJoobu さんから「見本盤専用のスタンパーが作成されることがある」という情報をいただいており、さらに @HR_39 さんから、「予約生産が見本盤より優先されることがあるらしい」という情報もいただきました。

その結果として初回盤より見本盤のほうがスタンパーが進んでいるのではないかと。


今回の「聖母たちのララバイ」、岩崎宏美最大のヒットであり予約数も多かっただろうことから大量の予約分を確実に確保するため、上記のように「予約生産分が見本盤より優先された」ことも考えられます。


ということより、Wikipediaに記載のほかの情報を含む以上の情報より僕がたどり着いた仮説がこちら。


テレビ用に「聖母の子守歌」が録音される(1981年9月以前)

この録音を元に、限定盤プレゼント用シングルが制作される

人気沸騰で正式シングル化が決定され、すぐに歌詞カードとレーベルの版下が作成される

※(推測)この時点で作曲者は木森単独表記?

生産に取り掛かる直前、テレビ音源、またはプレゼント用シングルの音源を元にJohn Scottサイドから抗議を受ける

抗議を元に歌詞カードとレーベルの表記を急遽John Scott単独に訂正して予約分生産開始(1982年3月下旬?~4月上旬)

生産中(1982年4月上旬~中旬?)に木森もサビの作曲や編曲での貢献は認められ、生産を中断し歌詞カードとレーベルのクレジットを木森・Scott併記に訂正

※この差し替えのための生産中断などから発売が一か月延期

残りの予約分、予約以外の初回出荷分、見本盤などの生産を再開

※もしかすると単独表記盤の見本盤もあるかもしれない(4月21日発売予定だったシングルの見本盤が4月にラジオ局などに配られていないとなると少し遅い気もするため)ですが、放送局などに配布するため正確なクレジットにすべきということで見本盤は併記として単独表記の見本盤は破棄(または回収)された?

上記以降、併記盤がレギュラー盤として生産された。


上記の流れであれば、冒頭の@yukihirosasamo さんの「見本盤が併記盤である」ということにも、Wikipediaの「初回盤にJohn Scott作曲・編曲とクレジットされているものが存在する」という記述にも、盤面に刻印されているスタンパーやPMにも矛盾しません。また、ヤフオクに出品されているこのシングルの写真を見る限り(圧倒的にとは言わないまでも)併記盤のほうが枚数が多いので、併記盤のほうが長期間生産・出荷されていたことは確実かと思われます。


以上より、僕は「John Scott単独表記盤が初版。ただし、発売日に出荷された中には併記盤も含まれる。」と推測しますが、いかがでしょうか?

(2021/06/06 追記)

この記事を書いた直後、私が記事を書く元になったツイートをされた@yukihirosasamoさんから見本盤の情報をいただきました。

1. 見本盤(木森・John): 111 ※※[スタンパー8~10?]O?Q? [3月または5月製造]/ 111※※ [スタンパー8~10?]

2. 通常盤(John): 111 ※[スタンパー3~5?][4月製造]/ 113+ [スタンパー1~3?]

3. 通常盤(木森・John): 112 ※※※※+[スタンパー21~23?]R[6月製造] / 111 ※※※+[スタンパー16~18?]

[]内は筆者追記

実際の盤を見ていないのでスタンパーと見本盤のPMが確実とは言えませんが、この結果からもJohn Scott単独表記盤より見本盤(併記)のほうがスタンパーが進んでいるのは明らかです。発売の経緯から言っても早い段階からのプロモーションなどは不要と思われること、また、スタンパーの進み具合から見ても見本盤のPMは”Q"であり、5月製造である可能性が高いと思われます。

以上の情報から初稿で記載した仮説がほぼ確実になったのではないかと思っております。


ご協力いただきました@yukihirosasamoさん、@Sawyer625 さん、ありがとうございました。

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